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横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)9号 判決 1979年4月23日

原告 大倉産業株式会社

右代表者代表取締役 長井満

右訴訟代理人弁護士 渡邊一成

被告 横浜市水道事業管理者水道局長 光安順三

右訴訟代理人弁護士 上村恵史

同 会田努

同 山崎明徳

同 大沢公一

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

(一)  被告は、原告が昭和五一年三月一六日提出した給水工事代行店指定申請に基づき、原告を昭和五一年六月一日以降引き続き横浜市水道局給水工事代行店規程による給水工事代行店に指定すべき義務があることを確認する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(一)  本案前の申立

主文と同旨。

(二)  本案についての申立

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因(原告)

(一)1  原告は、昭和四八年六月一日被告から横浜市水道局指定給水工事代行店規程(昭和四七年五月三一日水道局規程第八号、以下「旧規程」という。)による給水工事代行店(以下「代行店」という。)に指定され、横浜市水道(以下「市水道」という。)の給水装置工事の設計施行に従事していた者である。右指定の有効期間は、昭和四八年六月一日から昭和五一年五月三一日までであった。

2 原告は、右有効期間満了後も引き続き代行店の指定を受けるため、同年三月一六日被告に対し、所定の給水工事代行店指定申請書を提出し、右は被告に受理された。

3 しかし、被告は、前記有効期間満了後である同年六月一日以降につき原告を横浜市水道局給水工事代行店規程(昭和五一年五月一五日水道局規程第五号。旧規程を全部改正したもの。以下「新規程」という。)による代行店に指定していないし(なお、新規程附則二項により、旧規程の規定によりなされた申請その他の手続は、新規程の相当規定に基づいてなされた申請その他の手続とみなされている。)、原告の前記申請に対し何ら応答していない。そのため、原告は、同年五月三一日の経過により代行店の資格を失ない、市水道関係の給水装置工事ができなくなった。

(二)  被告は、原告を代行店に指定すべき義務がある。

1(1) 代行店の指定の有効期間満了後も引き続き代行店の指定を受けようとする者を引き続き代行店に指定すること(以下「継続指定」という。)は、被告の自由裁量事項ではなく、被告は、代行店からの申請があれば継続指定をしなければならないものである。

(2) まず、新規の代行店指定自体、被告の自由裁量事項ではない。

新規に代行店の指定を受ける手続は、申請者が所定の基準に適合していれば、保証金を納付し、「業務を誠実に行なう旨の誓約書」等の書類を提出する等の手続を履行することにより、被告から代行店に指定されることになっている。代行店の過当競争防止その他の配慮に基づく裁量権を被告に認めるべき規定がないのみならず、その行政目的からみても、被告にかかる裁量権を認めるべき合理性は存在しない。市民に対し飲用水を供給し、かつ衛生を保持すべき水道法一条、二条、横浜市水道条例(以下「水道条例」という。)一条の趣旨と、代行店の指定を受けることが市水道の給水装置工事の設計施行という営業上の利益を得る地位の獲得に関連すること、つまり憲法の保障する営業の自由の問題に関連することに照らし、代行店の資格要件に関する基準を定める他に、被告に何らかの裁量権を認める余地は存しないからである。

(3) ところで、継続指定については、それが営業上の利益を得る既存の地位の確保の問題であることに照らし、新規指定以上に被告の裁量権が制限されるはずのところ、継続指定の申請手続において、被告の裁量権を認めるが如き基準に関する定めはない。

(4) 原告は、所定の代行店指定の基準に適合しており、代行店の適格性を備えている。また、原告には継続指定を受ける必要がある。

2 代行店指定の取消は、指定の有効期間中における被告の代行店に対する不利益処分であるが、継続指定をしないことによっても、代行店は、代行店指定の取消と同様営業上の利益を得るという既存の地位を害されるのであって、継続指定につき被告には裁量権が認められず、代行店の指定が継続指定の前後を通じて一体であると考えられることからすれば、代行店の継続指定をしないことは、代行店指定の取消と実質的には同じである。しかるに、原告には代行店指定の取消処分を受くべき事由がなく、原告を代行店に継続指定すべきでない事由は存在しない。

(三)  よって、原告は被告に対し、行政事件訴訟法三条一項に基づく抗告訴訟として、請求の趣旨記載のとおりの義務あることの確認を求める。

二  本案前の申立の理由(被告)

被告に対し原告を代行店に指定すべき義務があることの確認を求める原告の本件訴は、代行店の指定が行政事件訴訟法三条一項にいう「行政庁の公権力の行使」に当たらないこと及びかような義務確認訴訟は許されないことのいずれの点からみても不適法な訴であり、却下されるべきである。

(一)  公権力の行使について

1 行政庁の公権力の行使に当たる行為というためには、行政庁が一方的、優越的に公法上の具体的事実を認定し、これに対し法令を適用して行なわれる行為でなければならない。

2 ところで、水道条例一〇条に基づく代行店の法的地位は、次のとおりであると解される。

(1) まず、関係法令についてみれば、水道事業者は料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない(水道法一四条一項)ものとされており、需要者に水を供給するために水道事業者の施設した配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水用具(以下「給水装置」という。)の施設工事については、何人がこれを施行し、何人がその費用を負担すべきかを明定していない(同法三条九項参照)。そして、横浜市の経営する水道事業に関する供給規程である水道条例、横浜市水道条例施行規程(以下「施行規程」という。)及び新規程によれば、給水装置の施設工事について次のように定められている。

(イ) 給水装置工事をしようとする者は、給水装置工事申込書により、管理者(被告)に申し込まなければならない(水道条例九条一項、施行規程五条)。

(ロ) 給水装置を設置しようとする者又は給水装置工事を施行しようとする者は、設計についてあらかじめ管理者の審査を受け、施行後直ちに検査を受けなければならない(同条例一八条)。

(ハ) 給水装置工事の設計及び施行は、申し込みにより市又は代行店が行なう。ただし、代行店が行なう設計及び施行は管理者が定める範囲のものに限る(同条例一〇条一項)。

(ニ) 右により代行店が行なうのは、原則として配水管又は給水装置からの分岐部分を除く給水装置工事の設計及び施行に限られている(施行規程七条の二)。

(ホ) 代行店は、工事の全部又は主要な部分を一括して第三者に請け負わせ、又は委任してはならない(新規程二二条)。

(ヘ) 代行店は、他人にその営業を営ませてはならない(新規程二一条)。

(ト) 管理者は、給水装置の構造及び材質が水道法施行令四条に規定する基準に適合していないと認めたときその他正当な理由があるときでなければ、市水道により給水を受けようとする者の申し込みを拒むことができない(水道条例二一条)。

(2) そこで、水道条例一〇条の規定により給水装置工事の施行を代行店に独占させる制度が創設されたものと解しうるか否かについてみるに、右制度を創設する合理的理由として通常主張されるのは、水道事業者が給水装置工事について技術的、衛生的観点からコントロールを加え、かつ、業者の乱立を防止して過当競争の弊害を防止することによって、市民に清潔な水を供給しようという点であるが、同条の規定からただちにかような制度を創設したと解するのは、疑問である。

まず、技術的、衛生的見地からみれば、事前に指定された代行店に施行させるよりも、工事施行後に事後的に厳重な検査を実施する方がより効果的であり、また、そのような検査をもって足りると考えることもでき、さらに、業者の乱立防止、過当競争の弊害防止のためには、むしろ自由競争による経済の自律性に放任しておいた方が良策であるとの考え方や、代行店だけが独占的に工事を施行すればかえって安易に流れ、安全性が損われるおそれが生じるとの見方もできる。

右のような観点に立てば、代行店に工事を独占させる制度は、憲法二二条一項で保障されている営業の自由を侵害するものとの主張も成立するおそれがあり、さらに、かかる制度を創設する条例は水道法に違反する無効なものとなりかねないのである(地方自治法一四条一項)。水道法一五条一項は「水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申し込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。」と規定しているだけなので、代行店以外の者が施行した工事であるという理由で当該給水装置への給水を拒否すれば、仮に、そのような拒否を許す条例の規定があるとしても、水道法一五条一項所定の正当の理由にはなり得ず、そのような条例の規定自体が無効と解されるおそれがある。

(3) 以上の諸規定を総合すれば、給水装置工事を施行しようとする者は、管理者に申し込み、設計についてあらかじめ管理者の審査を受け、施行後ただちに検査を受けなければならないこととされているのみで、その工事を現実に何人に実施させるかは、需要者の自由とされていることが判明する。

需要者は、給水装置工事の設計及び施行を市又は代行店に実施させようとする場合に限り、管理者に対し給水装置工事を申し込めばよいのであるし、管理者は、何人が実施した工事であるかを問わず、前記のような正当な理由がなければ需要者からの給水申し込みを拒むことはできないのである。

従って、代行店は、需要者から管理者に対し給水装置工事の申し込みがあった場合に、需要者からの申し込みがあれば、前記のような限定された範囲内の工事の設計及び施行を実施できるという地位を与えられているに過ぎないのである。需要者は、水道条例九条によって給水装置工事の申し込みを管理者になすのであって、代行店に申し込むわけではない。需要者が工事を何人に実施させるかは、その際に需要者が決定することであって、市(管理者)又は代行店に実施させることを義務づけられているわけではない。

3 代行店は、右のような法的地位を有するに過ぎず、代行店の指定は、営業の許可に関するものではなく、右代行店の指定がなければ水道工事業が営めないという法律効果が生ずるものでもない。また、代行店指定行為は、被告ないし横浜市と代行店との間に公法上の法律関係を生ぜさせるものではなく、優越的地位に基づき公権力を発動したと解すべきものでもない。

4 右のような横浜市と代行店との法律関係は、国や地方公共団体が、土木工事を発注するに際し、あらかじめ会計年度当初に、一定の資格要件に合致した者らの中から選考した入札参加指名業者を登録しておき、これらの登録業者のなかから特定の者を選定することとしているのと極めて類似しており、右入札参加指名業者に選考されなかったからといって、土木、建築業が営めなくなるわけのものではなく、入札参加指名業者の資格が停止又は取消されても同様なのである。入札参加指名業者のなかには、事実上その地方公共団体からの受注工事だけで経営を維持している者もあるであろうが、さればといって、当該業者の入札参加指名や指名の効力停止が行政処分と解すべきものになるわけではないのである。

(二)  義務確認訴訟について

仮に、代行店の指定が公権力の行使に当たる行政処分であるとしても、義務確認を求める原告の本件訴は、次のとおり不適法である。

すなわち、行政庁に対し、ある種の行政行為の発動を求める訴又はある種の行政行為をなすべき義務あることの確認を求める訴は、現行憲法における三権分立を無視し、行政事件訴訟法における法定抗告訴訟に関する定めを無意味にするものであって、司法権の範囲を逸脱している不適法な訴である。司法裁判所の権限は、司法機関として、具体的争点につき法の具体的適用を保障するという限定的、消極的な法律的判断機能を行使するのに止まるべきであって、特別な定めなしに、裁判所が右の機能をこえて行政庁に処分を命ずる積極的、意欲的作用を行なうことは、結局司法が行政に対する指導ないし一般的監督を行なうことに帰し、司法権の限界をこえるものとして許されない。

被告は、原告の代行店指定申請に対し、いまだ指定の是非について判断を下していない。それにも拘わらず、裁判所が被告の義務を確認する判決を下せば、右判決は、訴訟当事者間の紛争に対する具体的な法適用による解決を図るものではなく、具体的な争訟とはなれて裁判所が行政庁の作為義務の存否を判断するということに帰するから、結局において、裁判所が行政庁に対し行政処分の形態を指示し、給付をなすべきことを命ずることになる。これは、いまだ行政庁の行政処分が示されず、訴訟当事者間で具体的な行政処分についての紛争がないにも拘わらず、裁判所が行政処分を命ずるということに帰し、司法権の限界をこえるものである。

三  請求原因に対する認否(被告)

(一)  請求原因(一)の事実は認める(原告が代行店指定有効期間の満了により昭和五一年六月一日以降市水道関係の給水装置工事を施行することができなくなったとの主張は争う。)。

(二)  同(二)の主張は争う。

なお、代行店の指定は、被告の自由裁量事項であって、法律上覊束されているものではない。

四  本案前の申立の理由に対する反論(原告)

(一)  代行店指定の行政処分性について

1 行政処分とは、公権力の行使として、国民個人の法益を直接に、かつ継続的に左右する効果をもつ行政庁の行為をいい、換言すれば、行政処分の公権力性とは、行政機関の行為が国民個人の法益に対し事実上の支配力をもつ状態を指称するものというべきである。

2(1) 横浜市の営む水道事業は、水道法にいう水道事業であって、水道利用者に対する関係において公権力の行使を本質とするものではない。しかし、市水道は、ほぼ横浜市内全域を給水区域としているが、同法八条四号によれば、水道事業経営の認可基準として、その給水区域が他の水道事業の給水区域と重複しないこととされており、市水道でない水道は、主として井戸ということになる。

(2) ところで、配水管から分岐する給水装置の工事は、市又は代行店が施行すべきものと定められている(水道条例一〇条)。同条の趣旨は、水道事業者である市が配水管を布設するのみならず、それから分岐する給水装置も市自ら工事すべきことを前提とし、ただ給水装置工事をすべて市が施行することは実際にはできないから、水道事業管理者(被告)の指定する代行店にこれを代行させることにより、市自ら施行したのと同様の効果を確保しようとするものである。従って、被告の定める一定の基準に適合する者でなければ代行店に指定されず、その基準は、水道衛生保持のための知識技術と施設設備の確保にあることが知られる。そして、代行店に対する規制として、代行店の名義貸は禁止され(新規程二一条)、また、工事の全部又は主要な部分の一括下請等は禁止されている(新規程二二条)。従って、代行店の指定を受けていない業者が横浜市内で水道関係の工事をしようとすれば、それは、市水道の給水装置工事の主要ではない部分の下請が、受水タンクより下流の装置の工事か、あるいは井戸関係の工事に限定されることになる。なお、下水排水関係の業者も、代行店の指定を受けないと、装置が上水道に接続するため、くみ取り便所の水洗化工事に関する限り制約を受ける(排水設備指定工事店等の指定等に関する規則三条、四条、一〇条)。

(3) しかるに、被告は、「給水装置工事は水道事業者が当然になすべきものではなく、給水装置工事をしようとする者は、給水装置工事の設計及び施行を市又は代行店に実施させようとする場合に限り、管理者に対し給水装置工事を申し込めばよいのであって、何人に実施させるかは自由である。」旨主張する。

しかしながら、被告の右主張は、代行店制度及び水道条例一〇条を否定するものであって、同条の解釈としてとりえないものである。

確かに、水道法は給水装置工事をだれが施行すべきか定めていないけれども、水道衛生の維持保全という行政目的のため知識技術と施設設備等につき一定の基準を設けている代行店制度には、一定の存在理由ないし合理性がある。多数の水道使用者をかかえる公営水道の場合、市又は代行店に非ざる私人が施行した給水装置工事につき、当局がその構造、材質、工事過程等を個別に点検しながら前記行政目的を達成しようとすれば、そのために要する人員、施設等の費用は相当なものになり、間違いなく水道料金あるいは地方公共団体の一般会計にはねかえり、一般市民の負担となる。一定の技術水準と設備を有する少数の代行店に対しその技術水準と設備の維持に関する監督指導をなすことにより前記行政目的を達成しようとする代行店制度の方がより合理的な制度である。なお、市自らが給水装置工事を施行することは代行店の技術水準の問題であって、前記行政目的達成のためには必ずしも本質的な要請ではない。むしろ、水道事業者と水道使用者との間の私法関係である給水契約にとって給水装置工事費用の利用者負担の要請を充すためには、市が施行するより代行店に施行させる方が合理的である。かような観点からみれば、市又は代行店が施行したのではない給水装置工事が水道法一五条の「正当の理由」に該当し、これに対する給水拒否が許される余地がないともいえないのである。

また、管理者は給水装置の構造及び材質について必要な事項を定めるが(水道条例一一条)、その材料は管理者から供給するとは限らず(同条例一二条)、工事費は工事申込者の負担とする(同条例一三条、一六条)との関連規定は、条例一〇条を市又は代行店が設計及び施行を行なうことを定めた規定と解してはじめて意義のあるものといえる。同条例一八条についても、その趣旨は、同条例一〇条で市が設計及び施行を行なうといっても実際問題としてできるものではないから、設計については管理者の審査、施行については事後検査により同じ効果をあげようというだけのものであって、代行店でなくとも設計及び施行ができる旨を定めた規定ではない。

3 右のとおり、「給水装置工事」を施行しうるか否かは、まさに法的資格の問題であり、代行店指定制度をとれば、それは法的身分ないし地位の問題といってもよい。給水装置工事の代行資格という水道法、水道条例等に根拠を有する法的資格の認定ないし形成である代行店の指定は、行政機関の行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものということができ、まさに行政処分である。そして、被告と代行店との関係は、ある程度独占的な公営水道につき水道事業者がなすべき給水装置工事の施行の代行に関する法的資格の問題として公法関係であり、代行店に対し被告が行政機関として臨んでいる事実は間違いない。予算執行の適正化のため国や地方公共団体という私法上の権利主体が、土木工事の発注という私法関係における契約当事者の基準として、入札参加指名業者登録の制度を設け、その登録業者を選別するのとは明らかに異る。

4 代行店指定と似た制度である清掃法一五条に基づくし尿浄化槽内汚物の取扱業の許可については、その許可不許可行為を行政処分と扱い、その行政処分性は当然のこととされている(最判昭和四七年一〇月一二日民集二六巻八号一四一〇頁)。右事案と本件との差異は、公共下水道あるいは汚物処理の法的関係が公法関係のみである一方、公営水道の利用関係が私法関係であるということであろうが、清掃法に基づく取扱業者の法的資格の認定ないし形成である許可と、水道法、水道条例等に基づく代行店の法的資格の認定ないし形成である代行店の指定とは、いずれも法的効果の問題であって、そこには何ら差異はない。

5 なお、水道条例一〇条は、「市」又は管理者の指定する者(代行店)が給水装置工事を施行するとし、一般市民に対する給水者、給水装置工事施行者を、行政庁たる水道事業管理者とせずに私法上の権利主体である地方公共団体「市」と表示し、給水契約を私法関係と把握するとともに、給水装置工事の施行も右私法関係たる給水契約上は水道事業者たる「市」にその施行義務がある趣旨を示し、他方、右施行を代行する代行店は行政庁たる「管理者」が指定するものとして管理者と代行店の間が公法関係である趣旨を表示している。給水契約や代行店制度の趣旨について、水道条例は論理一貫した構成と表現をとっているのである。

(二)  義務確認訴訟の適法性

行政行為が法律に基づき、法律に適合してなされることを要するのは行政の基本であり、その法律適合性は裁判所によって審査される。現行憲法の三権分立の趣旨は、旧制度の如き行政権の不可侵性を予定しない(司法国家)。行政庁に独自の権限が与えられるのは、その裁量権付与が法律の定める行政目的の実現に資する場合である。行政庁との間の具体的紛争において行政庁のなすべき行為の内容が一義的に明白であるような場合には、その処分につき行政庁の判断を経る必要性も合理性もないし、かかる場合の司法審査を処分に対する事後審査に限定すべき理由もない。司法権は、具体的紛争につき法の具体的適用を保障するものであるが、紛争が現実化し、当事者に現実に損害が生じている一方、行政庁がそのなすべき行為を違法に怠るという場合にも、裁判所の権限を事後審査に限り行政庁の違法を助長するという程に「限定的消極的」な権能ではないはずである。

本件訴のように、被告行政庁が当該行政処分をなすべきことが法的に拘束されていると認められ、当該行政処分がなされずにいる状態がすでに原告の法益を著しく侵害していると認められるときは、無名抗告訴訟として義務確認訴訟が許されるというべきである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因(一)の事実は、原告が代行店指定有効期間の満了により昭和五一年六月一日以降市水道関係の給水装置工事を施行することができなくなったとの点を除き当事者間に争いがない。

二  そこで、本案前の主張のうち、まず代行店の指定が公権力の行使に当たるといえるかについて判断する。

(一)  公営水道事業に関する法律関係

1  水道事業に関する法的規制としては、水道法が、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与するという目的(同法一条)を果すため、水道事業に対し厳格な監督規制を行ない、事業の成立や利用関係について各種の規制を加えている。

事業の成立に関しては、水道事業を経営しようとする者につき厚生大臣の認可が必要とされ(同法六条一項)、その経営主体についても、昭和五二年法律第七三号による改正前においては、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得れば市町村以外の者でも右認可を受けることができると規定することによって、実質上市町村が優先的に経営主体となりうるとしていたのを、右改正により、水道事業は原則として市町村が経営するものとし、市町村以外の者は、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとされ(同法六条二項)、地方公共団体たる市町村の事務の一つである水道事業(地方自治法二条三項三号)について、経営主体は市町村が原則であり市町村以外の者は例外であると改められた。そして、水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について供給規程を定める権限を有し(水道法一四条一項)、その反面、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申し込みを受けたときは、正当の理由なく拒むことができず(同法一五条一項)、特定の者に対して不当な差別的取扱をしてはならないものであるが(同法一四条四項四号)、当該水道により給水を受ける者が料金を支払わないとき、正当な理由なしに給水装置の検査を拒んだとき、その他正当な理由があるときは、その理由が継続する間、供給規程の定めるところにより、その者に対する給水を停止することができ(同法一五条三項)、当該水道によって水の供給を受ける者の給水装置の構造及び材質が政令で定める基準に適合していないときは、供給規程の定めるところにより、その者の給水契約の申し込みを拒み、又はその者が給水装置をその基準に適合させるまでの間その者に対する給水を停止することができ(同法一六条)、また、給水装置の検査については、日出後日没前に限り、その職員をして、当該水道により水の供給を受ける者の土地又は建物に立ち入り、給水装置を検査させることができるとされている(同法一七条一項)。

2  ところで、前記改正後の水道法二条は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることに鑑み、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講ずべき国及び地方公共団体の責務を明らかにしている。

これを地方公共団体たる市町村の経営する公営水道事業についてみれば、右事業は、一種の公共用営造物で、地方自治法二四四条にいう公の施設であり、地方公営企業たる水道事業の設置及びその経営の基本に関する事項は条例で定めるものとされている(地方公営企業法四条)。そして、公営水道事業の設置及び管理は、いわゆる非権力的な管理作用にぞくし、私人の経営する事業と本質的に異ならないとしても、社会公共の福祉を実現するという公共的目的をもち、公益と密接な関係を有するため、水道法や条例等によって特別な規制が加えられている。かような規制の法的性質については、典型的な私法上の当事者関係と相当異質ではあるがなお私法関係とみるのが相当な場合と、一般行政的見地をも加味してなされる規制であって、その規制による効果が特定の個人に分割して帰属するものではなく、不特定多数の住民福祉の増進に向けられているなど公法関係とみるのが相当な場合とがあり、そのいずれであるかは、規制の目的、効果等を検討のうえ個別的に決すべき事柄であるというべきである。

(二)  代行店指定の法律関係

1  水道条例は、市水道の管理に関する事項並びに給水についての料金及び給水装置工事の費用負担区分その他の供給条件及び給水の適正を保持するために必要な事項を定めるものであって(同条例一条)、水道法一四条一項により水道事業者である横浜市がその経営する水道事業に関して定めるべき供給規程でもあるが、同条例一〇条は、「給水装置工事の設計及び施行は、申し込みにより市又は管理者の指定する者(代行店)が行なう。ただし、代行店が行なう設計及び施行は管理者が定める範囲のものに限る。代行店について必要な事項は、管理者が定める。」と規定し、右条例の規定に基づいて管理者たる被告が代行店につき必要な事項を定めたものが旧規程ないし新規程である。

(1) まず、代行店指定の手続についてみれば、旧規程においては、代行店の指定を受けようとする者は、所定の書類を添付のうえ給水工事代行店指定申請書を管理者に提出し(四条)、一定の欠格事由に該当しないことのほか、実質的要件として、業務を自ら適確に行なうのに必要な知識経験及び資力信用を有すること、専属の責任枝術者(管理者の行なう水道法規、衛生工学及び工事の設計製図の三科目についての筆記試験に合格した者又は管理者により選考された者で、工事の設計及び施行管理に関する事項を担当するもの)及び配管技能者(三年以上工事の実務に従事した経験を有する者で、管理者の行なう実技試験及び工事に関する一般的知識についての筆記試験に合格した者又は管理者により選考された者で、工事の配管その他の実務を担当するもの)を有すること、所定の基準に適合する営業所及び機械器具並びに機械器具及び材料の保管倉庫を有すること等の五条一項各号所定の指定基準に適合するかどうかの審査をうけ、適合していると認められたのち保証金の納付等の手続を完了した場合に、代行店の指定を受けることができるとされている。新規程においては、以上の手続が代行店の予備指定と代行店の指定との二つの手続に分けられているが、全体を通じて、添付書類や指定の基準の内容は旧規程とほぼ同一である(五条ないし八条)。

(2) 右代行店の指定を受けた者は、市水道の給水装置工事の設計及び施行を行なうことができるが、代行店が行なう設計及び施行は、原則として、配水管又は給水装置からの分岐部分を除く給水装置工事の設計及び施行に限られている(水道条例一〇条一項、施行規程七条の二)。

(3) 代行店に指定されることに伴う義務として、代行店は、営業所に掲げる看板等に代行店指定番号の表示を義務付けられる(新規程一七条)ほか、工事に関する帳簿の備付け義務(新規程一八条、旧規程一六条)、工事の申し込みを受けたときは、正当な理由なくこれを拒んではならない工事の受託義務(新規程一九条、旧規程一八条)、工事施行についての適正価格の遵守義務(新規程二〇条、なお旧規程一九条)、自ら営業する義務(新規程二一条、なお旧規程一四条)、工事の全部又は主要な部分を一括して第三者に請け負わせ又は委任することの禁止(新規程二二条、旧規程二〇条)、工事の施行に関し工事現場に当該代行店の従業者を常駐させる等の義務(新規程二三条)、管理者の行なう検査に合格した材料の使用義務(新規程二四条、旧規程二一条)、管理者の行なう工事の完了検査の結果不完全と認められた箇所について自費で完全なものにする義務及び工事完成後少なくとも六箇月以内に生じた給水装置の故障について無償で補修すべき義務(新規程二五条、旧規程二二条)、管理者の行なう工事の完了検査に責任技術者又は配管技能者を立ち合わせる義務(新規程二六条、旧規程二三条)、工事の施行に関し管理者の指示に従う義務(新規程二七条、旧規程二四条)等が課せられている。

(4) また、管理者は、代行店に対する権限として、「この規程を施行するため必要な限度において代行店に対し、その業務に関し必要な報告を求め、又はその職員に、代行店の営業所又は保管倉庫に立ち入り、機械器具、材料、帳簿その他の物件を検査させることができる」(新規程三六条、旧規程一七条)し、代行店が義務違反等の所定の事由に該当するとき、指定を取り消し、又は一年を超えない期間を定めて指定の効力を停止することができる(新規程一三条、旧規程一二条)。

2  右のとおり、市水道の給水装置工事に関する代行店の制度は、その法律上の根拠を水道条例及びこれに基づいて管理者が制定した規程に有しているのであるが、水道法は、給水装置工事について、水道事業者が供給規程で右工事費用の負担区分を定めなければならない旨規定するのみで、同工事を誰が施行するか定めていない。

確かに、給水装置工事を含む水道工事業について営業許可等の法律上の規制は行なわれていないけれども、水道法の右規定は、費用負担区分の定めを置くべきことを命ずることによって、水道事業者自ら給水装置工事の設計施行をすることのある場合を当然予定しているということができるし、また、水道事業者自ら給水装置工事を施行することを禁止しなければならない合理的理由を見いだし得ないことからすれば、公営水道事業者である市町村が、その条例により、当該公営水道の給水装置工事を自ら行なうものとし又は水道衛生上の見地から一定の技術水準にある者をしてこれを行なわしめることができる旨定めても、地方自治法一四条一項に違反するものとは解せられない。

ところで、水道条例の規定をみれば、給水装置工事をしようとする者は、給水装置工事申込書により管理者に申し込まなければならないとされ(水道条例九条一項、施行規程五条)、また、給水装置工事の設計及び施行は、右申し込みにより市又は代行店が行なうとされているが(水道条例一〇条一項)、右条例の趣旨は、給水装置工事の設計、施行についても水道事業者たる市が行なうことを前提とし、これをすべて市自ら行なうことは実際上できないため、代行店をしてこれを代行させることにより、市自ら行なったのと同様の効果を確保しようとしたものと解せられる。

なお、被告は、給水装置工事をしようとする者は、右工事の設計及び施行を市又は代行店に実施させようとする場合に限り、管理者に対し工事を申し込めばよいと主張するが、右主張は、前記水道条例九条一項の明文に反する。また、その主張が、「管理者に対する給水装置工事の申し込みは必要であるが、その設計施行を何人に依頼するかは申込者の自由であり、水道条例一八条により、設計についてあらかじめ管理者の審査を受け施行後直ちに検査を受けるならば、自由に給水装置工事ができる。」という趣旨であれば、そのように解することは、前記のとおり、水道条例、施行規程、新規程によって、一定の技術水進にある者に限り指定され、かつ、給水装置工事として行なうことのできる設計、施行の範囲が限定され、しかも工事施行等につき各種の規制が加えられている代行店制度を全く無意味なものとすることに帰し、水道条例一八条の解釈としては到底とりえないというべきである。従って、被告の右主張は採用できない。

3  そこで、水道条例九条一項にいう給水装置工事をしようとする者(以下「工事申込者」という。)と給水装置工事を行なう市及び代行店の三者間の法律関係について検討する。

工事申込者は、前記のとおり、給水装置工事申込書によって管理者に申し込むのであり、代行店が工事の一部を代行する場合も右と同様であるけれども、この点から、給水装置工事における当事者関係が市と工事申込者間にのみ生ずるとすることは相当でない。右申込書には、申込者欄のほかに工事代行者欄が設けられ、その住所又は営業所、氏名を記入のうえ代行者が押印する様式となっている(施行規程五条)のであるから、工事申込者が代行店に工事を施行させようとする場合は、管理者に対して申し込みをする前に、代行店に工事の依頼をしておくことが予定されている。また、代行店の業務に関し、前記のとおり工事受託義務、適正価格の遵守義務、一括下請負等の禁止、自ら営業する義務などの規制が加えられていることの反面として、代行店が市に代わって行なう工事は、代行店が自己の営業として、自己の採算において行なうものであるということができる。さらに、工事費に関する規定をみても、水道条例は、工事費を「市において」施行する給水装置工事の費用と定義したうえ(三条六号)、右工事費は給水装置工事申込者の負担と定め(一三条)、その算出方法及び納入方法について規定しており(一五条、一六条。なお、右算出方法を具体的に定めている施行規程一〇条は、市が施行した場合の工事費につき代行店が施行した場合と区別して規定したものである。)、代行店において施行した場合の工事費については、前記のとおり、新規程が、「代行店は、工事の施行について適正な価格で行なわなければならない。」と定め、代行店が市に代行して行なう部分についての工事費は、代行店限りにおいて代金決済が行なわれるものとされている。また、施行した工事の補修責任に関しても、施行規程一二条は市が施行した給水装置工事について、新規程二五条は代行店が行なった工事について、それぞれ補修責任を規定し、施行者が市の場合と代行店の場合とで区別している。以上の事柄を総合すれば、申し込みのあった給水装置工事のうち、市において行なう部分に関しては工事申込者と市との、また、代行店において行なう部分に関しては工事申込者と代行店との各工事請負契約上の関係として、いずれも私法上の当事者関係であると解するのが相当である。

しかしながら、代行店と市ないしは管理者との関係について検討すると、代行店が市に代行して行なう工事は、右のとおり、代行店と工事申込者との請負契約に基づいてなされたものとみるべきものであるが、水道条例、施行規程、新規程などの前記関係法規に照らしても、工事申込者から申し込まれた給水装置工事を管理者が代行店に対して請負わせている私法上の当事者関係とみること(地方公営企業法九条八号)はできず、管理者たる被告から代行店の指定を受けた者が給水装置工事を施行することにより、市が施行したと同様の効果が確保されることになるという意味において、公法上の法律関係であると解するのが相当である。

4  以上の代行店に関する法律関係から考察すれば、水道条例上、公営水道である市水道の給水装置工事の施行は水道事業者である市において行なうことが前提とされ、その例外として、被告において水道衛生上の見地から、一定の知識、技術、人的・物的設備を有すると認めた者である代行店に対しては、各種の特別な法的規制を加えたうえで、市に代行して給水装置工事のうち所定範囲の設計施行を行なうことができることとし、市が施行したのと同様の効果を確保しようとしたものと解される。右のような法的資格を付与する法的効果を伴う代行店の指定は、営業の許可とは異なるものではあるが、水道条例等に基づいて被告が行政庁として国民の権利義務ないしは法的資格を形成する行為ということができ、従って、被告による代行店の指定行為は、公権力の行使たる行政処分に当たると解するのが相当である。

三  次に、本案前の主張のうち、義務確認訴訟について判断する。

(一)  行政庁に対しある行政処分をなすべき義務あることの確認を求めるいわゆる義務確認訴訟は、三権分立の建前から原則的に許されないというべきであるが、例外的に、行政行為をなすべきことが法律上覊束されていて、行政庁の第一次的判断を重視する必要がない程に明白であり、かつ、事前に司法審査を得なければ回復し難い損害が生ずるというような緊急の必要性があると認められる場合に限り、かような義務確認訴訟も許されるものと解するのが相当である。

(二)1  代行店の指定について、原告は、「継続指定の場合はもとより、新規の代行店指定においても、被告に自由裁量の余地はない。」と主張するのに対し、被告は、被告の自由裁量事項である旨主張するので、この点から判断する。

被告が水道条例等に基づいて行なうところの代行店の指定は、前記二(二)1(1)の代行店指定の手続のとおり行なわれるのであって、新規程の規定上は、申請者が六条一項各号及び八条一項各号の指定基準(以上の基準は旧規程五条一項各号の指定基準とほぼ同一内容である。)に適合していると認められ、保証金の納付等所定の手続を完了した場合に代行店の指定が被告によってなされることとされ、また、右代行店の指定は毎年一回行なうものとされている(新規程四ないし八条)。右のとおり、被告による代行店の指定は、毎年行なうものとされ、かつ、申請者が一定の指定基準に適合すると認められた場合に指定がなされると規定されている反面、水道条例、新規程等の関係法規中には、右基準に適合している場合でもなお被告の裁量により代行店の指定をしないことを認める趣旨の規定が定められていない(なお、水道条例一〇条二項により、被告は代行店について必要な事項を定める権限を有しているが、右規定は、市水道の給水装置工事についての設計及び施行を市のほかに代行店が行なうことができるとした上右代行店の行なえる範囲を被告が定めるべきもの(同条一項)とするほかに、代行店の存在を前提として、その規制のため必要となる事項につき主として専門技術的ないし手続的観点に立って定める権限を被告に与えたものと解することができ、右規定からただちに代行店の指定における被告の自由裁量権限を認めることはできない。)。さらに、一般的な法的規制として、給水装置工事を含む水道工事業に関し営業の許可などの法的規制がなく、何人も自由に水道工事業を営むことができるといっても、水道条例により、市水道の給水装置工事の設計施行は市又は代行店が行ない、代行店でないものは市水道の給水装置工事を行なうことができないとされている。従って、水道工事業者にとって代行店の指定を受けることは、市水道の給水装置工事を施行しうる資格の取得を意味し、しかも、水道事業は、原則として市町村が経営し(水道法六条二項)、かつ、水道事業者の給水区域は重複しないこと(同法八条四号)とされているため、市水道の給水区域を主たる事業活動の地域とする者にとっては、公営水道事業である市水道の給水装置工事を施行しうる資格の有無がその事業経営を左右することになるとともに、ひいてはその者の営業の自由にも深く関係する。これらの諸点に鑑みれば、被告のなす代行店の指定は、被告の自由裁量行為ということはできず、申請者が所定の指定基準に適合していると認められ、かつ、所定の手続を完了した場合、被告においてその者を代行店に指定すべきことが法律上覊束されていると解するのが相当である。

2  ところで、前記のとおり、代行店の指定を受けるためには、申請者が指定基準に適合している必要があり(なお、継続指定においても指定基準は同一であり、手続上「指定期間中に施行した工事の実績に関する書類」の提出が必要となるなど若干の相違はあるものの、実質的には新規指定と同様の手続が必要とされている(新規程一二条、八条)。)、右基準のなかには形式的に判断しうる事項も含まれているが、業務を自ら適確に行なうのに必要な知識経験及び資力信用を有するかどうか、営業所、機械器具等が所定の基準に適合するかどうかなどの要件審査は、技術的、専門的な裁量判断であって、かような代行店の適格性の判断は、一見明白な要件判断ということができない。従って、代行店の指定に関しては、その性質上、まず、被告において申請に対する判断をなし、しかる後、これに不服があればその適否を裁判所が事後的に審査することとするのが相当である。

よって、被告に対し、原告を代行店に指定すべき義務あることの確認を求める原告の訴は、この点において許されないものというべきである。

(三)  さらに付言すれば、義務確認訴訟が許容されるためには、原告において事前に司法審査を得なければ回復し難い損害が生ずるような緊急の必要性がなければならない。

しかしながら、原告が、代行店の資格を失なった昭和五一年六月一日から間もない同月一〇日に、「不作為の違法確認の訴え」を提起することに代えて義務確認を求める本件訴を提起していることは記録上明らかであり、被告がいまだ原告の代行店の指定申請に対し何ら応答していないことは前記認定のとおりであって、《証拠省略》によれば、原告は、代行店の指定が受けられないことから水道工事業を行なっておらず、その後の原告の事業活動としては、以前から行なっていた家屋、土地等の賃貸業を営んでいることが認められるけれども、原告の関係者である磯田英子、長井一の各証言をみても、事前に司法審査を得なければ回復し難い損害が生ずるというような事情に関する供述は見当らないし、本件全証拠によるも、「不作為の違法確認の訴え」によらずに(なお、原告が本訴において不作為の違法確認を求めていないことは記録上明らかである。)義務確認訴訟によらなければならない程の前記緊急の必要性を認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上によれば、原告の本件訴は、例外的に義務確認訴訟が許容される場合に該当しないので、不適法といわざるを得ない。

四  結論

よって、被告に対し義務確認を求める原告の本件訴は、不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅純一 桐ヶ谷敬三 裁判長裁判官宍戸清七は転補のため署名押印することができない。裁判官 三宅純一)

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